3/27 発症

ニューオリンズ滞在を終えて、昨日クルーズから降り、今日はクルーズのメンバーでライブ。少々忙しいけど、2か月でたっぷりインプットした心の栄養が演奏にどう出るか、ワクワクしている

後で思い返せえば、これは兆候だったのかもしれない 海ちゃん、午後の散歩で、右のふくらはぎが痛い、という。 船の中で踏ん張ったからかなあ、歩くのが辛いというので途中で引き返した

しばらくして痛みは落ち着いたようなので、車で西荻窪のライブハウスへ
ニューオリンズ帰りということでたくさんの人が足を運んでくれた
マスターご夫婦も来月はニューオリンズに行く予定 いい夜だね

7:00pm「南部の夕暮れ」でライブスタート。ここまではいつも通りだった

2曲目、イントロ あれ?海ちゃん、忘れてんの?1コーラス歌って、サックスソロ、あれ?また吹かない。振り向くと、サックスを構えたまま、マウスピースに顔が近づかない。
これはおかしい。
「ちょっと、ストップ!」
すぐに近づいて「大丈夫?」と尋ねる。
返事はなく、目が泳いでいる。声も出ない。
とにかくゆっくり座ろう
かすかに顔の半分が痙攣するようにゆがんだ

脳だ

「名前は?」「誰だかわかる?」「この指、何本?」問いかけに返事はない。

お客さんの声が遠くに聞こえる「少し横にした方が」「いや、動かさない方がいい」

「海ちゃん、わかる?わかる?」話しかけるが、返事はなく、楽器に手を伸ばそうとする
目はしっかり開いていて、何かを探しているようだ でも時々、ふっと眠りに落ちそうになる。 私は必死に話しかけ続けた
その間にマスターが救急車を呼んでくれた。

15分ほどで到着しただろうか、救急隊の呼びかけにも、もう立ち上がることはできず、座った形のまま運び出され、ストレッチャーに乗せられた。
しばらく行先を探していたが「河北で受け入れOKです」
隊員の安堵の声に、私も少しほっとした。

手を握ると握り返す。でも質問をしても返事はなく、じっとこっちを見たり一生懸命咳払いをして声を出そうとする。

脳卒中だと思います。不整脈がありますが、前からですか?
不整脈は覚えがありません..

どこに向けていいかわからないけど、「勘弁してよ」ってつぶやいた
海ちゃんの体に起こった異変に対して
それによって、これからやろうとしていたことがみんな真っ白になっちゃったことに対して
今日のライブ、船で会った人が海ちゃんに会いたくて来てくれたんだよ
金曜日は海ちゃんのバースデイ、ハブのライブでお祝いしようと思ってたんだよ
ニューオリンズで二人で捕まえた、あの空気、一緒に演奏しようって言ったじゃない
あれも、これも.....みんな遠のいていった
ただ、悲しくはなかった
海ちゃんは生きる、と確信したから
彼の眼は、今起こった理解できない状況をつかもうと、強い光で周りを見回していた。
どこにもいくものか という強い意志が、彼の眼からは感じられたから
さっきまで、思い描いていたことに入れ替わるように、これから始まる、新しい人生を不思議と明るい気持ちで、期待していることに自分でも少し驚いた

河北救急医療センターに到着 なんだかグネグネしたところを通ってきたようだ
海ちゃんはERへ 私は受付から待合所へ。
保険証を出し、書類に記入。
トリアージの医師が何度か出てきて状況を知らせてくれる

8:00pm 検査 脳梗塞か脳内出血の可能性が高い
不整脈もあるので長嶋茂雄と同じ症例かと(和ませてくれるつもり?)
発症から時間が浅いので治療は有効な可能性が高い

9:00pm ライブに来ていた妹が海ちゃんの楽器をもってきてくれた
検査の結果 脳梗塞 今血栓を溶かす薬を始めた
カテーテルを入れて血栓を回収する「
脳内血管開通手術」もあるが、適用ではないようです
→しばらくすると 適用になりました となった

いろんな書類が来る
・入院のしおり ローソンの案内とか入ってる
・介護が必要になった時のこと
・脳内血管開通手術への同意書 脳内の血管が一気に開通すると、脳出血を起こす可能性もあります
・タオルや寝間着のレンタル

生き死ににかかわる同意書からローソンの営業時間まで、どれだけ怯えていいのやら安心していいのやらよくわからない

手術開始前、ICUに招かれた
さっきサインした同意書を思い出し、最悪の場合はこれが彼の最後の姿になるのかもしれない、と初めて感じた このままずっと一緒に居たい気持ちと、すぐに手術へ向かってほしい気持ちが激しく揺れ動いた
耳元で、大丈夫、待ってる、愛してる それを繰り返すしかなかった
海ちゃんは目を閉じたままスッと涙を流した
絶対帰ってきて

1時間半から2時間くらいの手術です、と言っていた
おなか空いちゃったなあ
ここでは飲食ダメだし。。。。そしたら自動販売機にコーンスープが。地獄に仏

なんか、時々地下でちょっと恐ろしい叫び声が上がる
海ちゃんではないことを祈りながら、待つ

1:00am
長い手術だった 難しいものだったに違いない
血栓回収の手術をしてくれた主治医 比嘉先生に招かれICU へ。
脳の写真を見ながら説明を受ける
「脳梗塞・左中大脳動脈閉塞症」
左の言語をつかさどるところに向かう血管に、血栓が詰まった
一部開通せず、梗塞が起きてしまった(とても悔しそう)
でも復活した血管もある(嬉しそう)
失語症と右の麻痺が程度差はあれ、後遺症として残るだろう
左後部の、認識をつかさどるところはダメージが少ないので、認識はできるだろう

ショックだけど、「そうか」とも思った。
そうなるところを目の当たりにしたからだ。
眠りが覚めたように、「心配かけたよね~」と起きてきてくれることを願ったけれど、それははかない願いだった。
さっき見た彼、あれが今の海ちゃんだ。

なんだか心がぼんやりとしてしまった 1分先のことも考えられないような。

そこにタオル・寝間着レンタルの申し込みタブレットを回収に来た。
(タブレット入力に和ませてもらった 自分のクセ字がわかっちゃうんだもん)
そうか、これが必要なんだから、生きてるんだ
3/26 クルーズを終えたところ
正気に帰った。ありがたかった


2:00 妹夫婦に送られて西荻へ。おなか減ったよ~。イチジクのケーキとかもらってもぐもぐ。
止めていた車を出して、家へ帰る。大丈夫、彼は生きてるから。今彼は一番安全な場所にいる。それだけで、なんだかとてもホッとして家路についた

それ以上、あんまり悪いことは浮かばなかったな。不思議だ。

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