退院半年 海ちゃんの今

 発症から10ヶ月、リハビリ病院を退院してから半年経ちました
やっと、回復とはこういうことかな、と実感がわいてきたところです。


退院してから去年は週2回、今年は週1回のペースで言語リハビリに通っています。(私も毎回同席させてもらい、驚いたり、感心したり)
最初は評価の試験も理解できないことが多く、リハビリ後はどっと落ち込むことも多かったけれど、いまでは宿題でちょっと「ウケ」を狙ったりして、笑い声の響くリハビリは、一緒にいてもココロ晴れ晴れする時間です。

失語症のリハビリは、記憶にはあるけど開け方の分からなくなってしまった引き出しを探るような作業。
彼の回復は劇的と言えるほどの速度ですが、人生に渡ってストックしてきた膨大な量の言葉を思い出すのは容易ではありません。新しい言葉を覚えるのと違って、「ある」ことはわかっているのに出てこない、とても歯がゆいのです。
言いたい言葉が出てこない時、言葉は聞こえるけど意味が捉えられない時、「病気をしたんだよ」と何度も自分に言い聞かせて、「わからない」ことを受け入れようとしています。
時にそれはとても辛いことですが、回復と、現状を受け入れること(ある意味、諦めること)を同時にやらなくてはならない、全部ひっくるめて、回復、なんですね。嫌になって投げ出してしまわないだけでもすごいことだと思います。

演奏活動は9月から徐々に再開し、音楽仲間やお客さんとも会話する機会が増えました。
初めは外界から流れ込んで来る情報の処理、自分の今の状態は大丈夫なのか?を感じ取ることに脳の力をすべて使い切り、ワンステージ吹いたらそのまま眠ってしまうくらい疲れていましたが、演奏を重ねるごとに体も、脳も、体力をつけてきて、今年に入ってからは演奏して、楽屋

で話をして、ということができるようになってきました。

演奏自体は、全く病気をしたことがわからないような時もあるし、あ、探してるな〜と思う時もあります。
でも、演奏に迷いはつきものだし、音楽をやる、というのは自分にしかわからないプログレスを信じて進んでいく、という感覚、生き方なので、これは今までと変わりありません。
この感覚があるから、言葉がうまく行かない時も「ま、いいか」って次に進めるのかな、と思います。音楽をやっててくれて、本当に良かった。

そして、彼の演奏を聞いてきてくれた人が、彼の回復を喜んでくれることが本当に嬉しい。
私達にとって何よりの支えになっています。

今彼の吹く「Danny Boy」は私が聞いてきた中で一番美しいです。
彼の中にある感謝と祈りがそのまま音になっているような演奏。
嵐のような試練の時間も、このためにあったのか、と思ってしまう。

この穏やかな時間を、私はできる限り大切に、ゆっくりと、心で感じていたいと思います。

彼は4月に心房細動を防ぐため、心臓の手術を受けます。
今はその意味も理解しているし、今までで一番健康になれるかも、なんて、とっても前向きな気持も示してくれます。

今は何より彼が無事手術を終えて、元気に日常を取り戻してほしい。
そしてまた二人で、皆さんと音楽を楽しむ日々を過ごしたいと願っています。


この10ヶ月、人は、なんて優しいんだろう、って感じてきました。

ミュージシャン、お店のみなさん、オーディエンスの皆さん、友人たち、本当に沢山の方がメッセージやビデオ、お見舞いを送ってくださいました。
時に挫けそうな私と、吹けるかどうか恐る恐るだった海ちゃんを変わらず演奏の場所で待っていてくださって、病気のことで途方に暮れた時、医療関係ですから、自分も経験したから、と丁寧に相談に乗ってくださって。

そんなに良くしていただけるようなこと、私、何もしていないのに、と思いましたが、
皆さんが心から応援して支えてくださったのだと感じています。
本当にありがとうございます。

これからも助けていただくこともたくさんあると思います。そして、私達が助けになれることがあれば、いつでもお役に立ちたいと思っています。

「僕たちがずっと皆さんのいい友人であれますように」 彼の、結婚式のお礼の言葉です

2024 節分




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